〜 8 〜
ヴィヴィオもフェイトもいなくなった部屋で、なのははカーペットにぺたりと座りこんでいた。
一体、2人はいつからあんな関係だったのだろう。今日が初めてなのか、それとも――
今日、フェイトの訪問時間が早かったのはこういう理由だったのか。
一番の親友と大切な娘。
想いの形は違うが、2人とも大好きだった。そんな2人が――
なのはは酷い頭痛と吐き気に襲われた。
今まで見てきた2人の姿が全て嘘だったように感じられる。
そして、さっきからずっと頭から離れない光景と、考えたことがなかったわけではない彼女の艶かしい姿。
あの時の彼女の姿と声に、自分の理性は確実に失われていた。
見てはいけないなどという罪悪感は全くなく、ただ2人が行っている行為に見入っていた。
そして、ベッドに視線を移すと彼女の乱れるような姿が鮮明に蘇ってくる。
「フェイ、ト……ちゃん――」
なのはは彼女が包まっていた毛布をずるりと引っ張った。
すると、その下に現れた真っ白なシーツと暗赤色の小さな汚れ。その色の理由がわからないほど、なのはは子供ではない。
「なんでっ、どうして――」
頭の中から消えてくれない光景を打ち消すように、なのははベッドの上にある枕を壁に投げつけた。
女性ならばいつかは通る道だろう。むしろ、自分たちは遅い方だった。
お互い、「早くそんな人が出来るといいね」などとフェイトと微笑みあったこともあった。
だが、それを行った相手はよりによってなのはの娘だった。
「わたし、だってっ!」
‘女の子同士’
なのはは彼女たちに伝えた言葉を思い出す。
フェイトはそれでよかったのか。
家族や家庭を望む彼女は、それで幸せになれると思ったのだろうか。
もし、彼女がそれでよかったのなら……。
どうして、私を選んでくれなかったの――?
× × ×
ひとしきり暴れたなのはは、自分で作り上げてしまった部屋の惨状に落ち込みつつも、とりあえず洗面台へ向かった。
自分でも気が付かないうちに叫んでいたのか、喉がカラカラする。さらに、拭き取られずに流れ続けた涙の所為で頬が痒かった。
2人が戻ってくる前に、部屋を片付け、気持ちの整理をつけなければならない。
なのはは深いため息をつくと、冷たい水で何度も顔を洗った。
「どうか、したの?」
タオルで顔を拭いていたなのはの元に、レイジングハートから着信を知らせるメッセージが届けられる。
今の自分の顔を誰かに見られるのは非常にまずいため、なのはは音声のみ回線を開いた。
「あ、やっと出てくれた」
聞こえてきた声は親友であるはやてのもの。
そのほっとしたような声に、なのははようやく彼女が何度も連絡をしてきてくれていたことに気付いた。
恐らく、レイジングハートが自分を気遣って回線を繋がないでおいてくれたのだろう。
そのことに感謝しながら、なのはは気持ちを切り替えてはやてと話し始めた。
「ごめんね、ちょっと取り込んでて。何かあった?」
「ああ、実はな――」
バタバタと足音を立てながら病院の中を走る。
途中、病院の職員から何度も注意を受けた気がするが、そんなものは今のなのはの耳には入ってこない。
(いた――)
廊下に備え付けてあるベンチに見慣れた人たちが座っていた。
「あ、なのはちゃ――」
はやてが手を上げ、こっちだと合図をするが、なのはは表情一つ変えず、気まずそうに立ち上がったヴィヴィオの頬を叩いた。